愛知県内有数の岡崎公園のフジが見頃を迎えた―との便りが届いた。しかしフジを見るだけでは芸がない。せっかくなので岡崎に伝わる「浄瑠璃姫伝説」の地を巡る旅に出た。(2010年4月29日取材)
浄瑠璃姫の物語は中世説話文学に登場し、江戸期になって人形劇「浄瑠璃」となって流行した。物語の舞台となったのが岡崎市である。
時は平安後期、1174年に源氏再興の大望を抱き、鞍馬を出た牛若丸(源義経)は奥州平泉へと向かった。旅の途中、現在の岡崎市矢作に到着、兼高長者の家に宿をとった。そこで長者の美しい娘・浄瑠璃と出会い恋仲となる。だが義経は奥州へと旅たつ。悲嘆の日々を送った浄瑠璃姫は1183年、悲しみのあまり菅生川(乙川)に身を投げた―というお話。岡崎市内には浄瑠璃姫ゆかりのスポットがたくさんあり、市観光協会では観光コースを設定している。こちらが観光協会のサイト上のコース地図。
地図右下の名鉄東岡崎駅付近からオレンジ色に塗られたルートに従って北進、西進しながら関連スポットを巡ろうという計画。ルート上にフジが見頃の岡崎公園もあって、ゴールデンウイークのウオーキングには最適のコースだ。
さて、東岡崎駅を降りて線路沿いに東に歩くと第1のスポットがある。六所神社参道の大鳥居の横、「高宮神社」と刻まれた石碑の礎石がそれ。義経が浄瑠璃姫に形見としてもらったジャコウのへそを埋めたとされる「麝香(じゃこう)塚」(現在はない)に使われていた石という。周辺にツツジが美しく咲き乱れていた。
せっかくなので六所神社(国の重要文化財)を参拝することにした。松並木の参道をしばらく行くと新緑がまぶしい境内に入る。左手に極彩色の楼門が見えた。
7世紀中ごろに創立。岡崎に進出した松平氏が信仰し、家康誕生時には産土神(うぶすながみ)として拝礼があったとされる。
社殿も華麗な彫刻と彩色が施されている。
新緑と社殿の鮮やかな朱色が、この時期ならではのコントラストを見せる。
神社に別れを告げて少し東に行けば住宅街の一角に安心院がある。義経が浄瑠璃姫の追善のために建てた妙大寺が始まりという。
北に進み、名鉄の線路を渡って少し歩けば菅生川にぶつかる。この辺りが浄瑠璃姫が身を投げた場所で「浄瑠璃淵」という。現在は護岸整備がなされているが、姫の入水当時は岩があり深い淵であったという。
周辺は「吹矢公園浄瑠璃広場」と名付けられ、句碑が建っていた。
散る花に
流れもよどむ
姫ヶ淵
(初代愛知教育大学学長、内藤卯三郎氏作)
句碑の裏手が成就院。浄瑠璃姫の亡き後で菩提を弔うために創建された。境内には供養塔(写真左)がある。
菅生川に架かる吹矢橋を渡って、さらに国道1号を渡ると岡崎市役所。そのすぐ西に本願寺三河別院がある。ここは浄瑠璃姫が観月の宴に興じたところと言われる。姫の死後、侍女・更科がここに草庵を営んで菩提を弔ったという。境内には観月遺跡(写真右)と更科の墓と伝わる供養塔(左)がある。
別院を出て西へ進むと岡崎市の繁華街・康生通に出る。その一角、ビルの谷間にひっそりと光明院浄瑠璃寺があった。
義経を諦めきれず、その後を追おうとしてついに父の兼高長者に勘当された浄瑠璃姫は草庵で暮らす。そして姫が菅生川に身を投げた後、兼高長者は出家して姫の草庵の跡に寺院を建立した。これが瑠璃光山安西寺、のちの光明院浄瑠璃寺である。
そこから南に歩き国道1号を渡ると岡崎公園。同公園の大手門近く、国道1号沿いにも浄瑠璃姫の供養塔があった。
大手門をくぐり、公園内の岡崎城南側にある藤棚に向かう。
「五万石ふじ」といわれる岡崎公園のフジ。棚は約1300平方メートル。フジの木の大きなものは枝の長さが約11メートルもある。
房が長く伸びており、真下に行くと紫色のシャワーを浴びているようだ。
藤棚のすぐ南側を、菅生川が静かに流れていた。
岡崎公園を後にして西へ向かった。矢作川に架かる国道1号の矢作橋を渡る。若き日の豊臣秀吉、日吉丸が蜂須賀小六と出会ったという伝説の橋である。
橋を渡って国道1号の北側を並行して走る街道をさらに西へ進む。まもなくして道路右手に寺が現れた。浄瑠璃姫伝説ルートの最後のポイント。誓願寺である。
兼高長者の屋敷はこの辺りにあったといわれ、長者は浄瑠璃姫を弔うため、この寺に十王堂を建立した。
お堂にはかつて長者が納めた義経と姫の木像が祀られていた。現在は本堂にあり、特別に撮影を許された。伝説の幻影を追うような旅の終わりに、2人の主人公に出会うことができた私は不思議な気持ちになった。
こちらが義経木像―。
こちらが浄瑠璃姫木像―。
これは像とともにお堂に納められていた姫の姿見鏡―。
義経を追うことを許さなかったが故に娘を死なせてしまった父親の後悔が伝わってくる。義経と浄瑠璃姫は木像に姿を変えて、寄り添っているようにも思えた。この旅で多数見つけた浄瑠璃姫の供養塔がこの寺の境内にもあった。寒々と建っていた他の供養塔と違って、その供養塔の上にはフジの花がひっそりと咲いていた。
問い合わせ
岡崎市観光協会
電話 0564-23-6216
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