あいち大人の休日(6)蔵の街に酔う~半田市ノスタルジック紀行

投稿者名 : 長坂 | 日時 : 2009年11月16日 12:42

(取材日2009年10月31日) 

若いころは毎日のように酒を飲んでいた。最近はそうでもないが、新酒の季節になると腰が落ち着かない。半田市の中埜酒造が運営する「國盛 酒の文化館」に問い合わせると「10月31日に新酒の試飲ができますよ」とうれしいご回答。半田市には幻の味といわれる「カブトビール」が飲める施設もある。舌なめずりして電車に飛び乗った。
 JR半田駅で降りて駅前の通りを東に向かう。まもなくして道路沿いに雲観寺という寺がある。その横の路地を入っていくと「蔵のまち観光案内所」があった。格子に囲まれた風格のある建物だ。それもそのはずで明治初めに建てられた商家・小栗家住宅(国登録有形文化財)。

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 道路側の店舗部分を半田市観光協会が案内所として活用しているのだ。観光客には「蔵のまちへの入り口」となる。案内所の中もなかなか風情がある。マップなどをもらって、さらに路地を進むと「國盛 酒の文化館」がある。

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 知多半島の政治、経済、文化の中心都市である半田市は江戸時代から酒づくりが盛んに行われた。中埜酒造はペリーが浦賀に来航した弘化元年(1844)に創業。「國盛 酒の文化館」は新工場ができた昭和60年(1985)に日本酒の文化を伝えるために創設したお酒の博物館だ。昭和47年(1972)まで約200年にわたり使われてきた酒蔵を改装。外観からして黒塗りの壁と漆喰窓のコントラストが鮮やか。施設内には伝統の道具や資料を展示している。
 この日は10月13日にできたばかりの新酒などの試飲とともに「重陽の節句」が行われた。重陽の節句は9月9日。奇数を縁起の良い数字とする中国では古来、この日を1年でもっとも縁起の良い日として不老長寿や繁栄を願うお祝いをした。旧暦の9月9日が10月26日に当たるため、酒の文化館では新酒試飲と合わせてイベントを行った。

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館内にはお雛様が飾られた。「日本では重陽の節句に雛人形の虫干しをかねて飾りました」と大橋明宏館長。お雛様の横には花に綿を載せた菊が。大橋館長が「重陽の節句は菊の節句とも言われ、菊の花びらを浮かべた酒を酌み交わしたり、庭の菊の花に綿をかぶせて一晩置き、菊の香りと夜露がしみこんだ綿で肌を拭くと健康になるという着せ綿の風習がありました。今ではほとんど行われていませんが、それを再現したものです」と教えてくれた。
 なんとも風流な節句である。まずは純米吟醸「あらばしり」の新酒を試飲。「しぼって最初に出てくるおりの絡んだ無ろ過の原酒という。芳醇な香りと甘さはまさに「お米のジュース」だ。続いて菊の花を浮かべた酒をいただく。食用の菊とともに飲み干すと体がカッと熱くなった。

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 外に出ると日差しが強い。合わせて1合も飲んでいないのに、ほろ酔いだ。酒の文化館の裏手にある半田運河沿いをふらふらと歩くと黒板囲いの蔵が連なる。かつてここから酒や酢が船で江戸、大阪へと運ばれた。映画のセットの中を歩いているようだ。堤防にもたれてハゼ釣りをする人々を少しの間、見ていた。

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 新酒の次はビールだ。目指すは運河の北西。かつてカブトビールを造っていた赤レンガの建物である。商店街や住宅街をぶらぶら歩いていくと赤レンガ建物に通じる狭い道にたどり着いた。道の両側に住宅や寺社が迫る細い道だが、「紺屋海道」という素敵な名前がある。
 かつては、この海道付近まで海が迫っていた。江戸時代、半田港が開かれるまでは大野港(現在の常滑市)へのメーンストリートとして多くの人々が行き交ったという。海道の入り口付近に古い建物のせんべい屋さんがあった。「米市商店」。ご主人によると元は明治8年創業の米穀店。平成元年(1989)から転業した。一枚一枚を手焼きにしたせんべいの香ばしいにおいが漂う。少し世間話をして帰ろうとするとおばあちゃんが「持っていきなさい」と割れせんべいをくれた。

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 この海道にはロマンチックな話が残っている。半田市が生んだ童話作家新美南吉は結核のために29歳で夭折するが晩年、半田の丹羽医院に通院した。医院の看護師さんの一人に好意を抱いた南吉は紺屋海道を通り、近くの神社の森の小径を2人で歩いたという。結核は当時、「死に至る病」である。死を予見しつつ恋の灯をともして海道を歩いていく童話作家。その姿を思い描きながら、私はおばあちゃんのくれた割れせんべいをバリバリと食べて海道を進んだ。

 数分も歩くと前方に赤レンガ建物が見えてきた。明治31年(1898)に丸三麦酒のビール工場として建てられ、「カブトビール」を全国に送り出した。「既にアサヒやサッポロ等の大都市メーカーがほとんどのシェアを占めていた時代、地方都市・半田から果敢に挑戦を仕掛けたのです」とパンフレット「半田赤レンガ建物」は解説する。カブトビールは明治33年のパリ万博で金賞を受賞した。
 同パンフによればビール製造のために安定した温度と湿度を必要だった。そこで二、三重の空気層がある壁や断熱耐火床など現在ではほとんど例を見ない特殊構造を有している。しかし、圧倒されるのはそのデカさだ。写真では見ていたが、実物を前にすると迫力満点。ところどころにツタが絡まる赤いレンガの建物は、朽ち果てようとも誇りを失わない宮崎駿アニメの巨大ロボットを連想させる。


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 建物のその後の運命を記そう。第二次世界大戦中にビール工場としての役目を終えて、昭和19年(1944)に戦闘機の隼や疾風を開発したことで知られる中島飛行機株式会社の衣糧倉庫となり翌20年、半田空襲でノースアメリカンP51による攻撃を受ける。戦後は平成6年(1994)まで食品加工工場として使用、2年後に半田市が買い取った。平成16年には国の登録有形文化財に。通常は非公開だが年に数回一般公開を行っている。
一方、カブトビールは翌年、復刻され半田市内の飲食店などで販売している。巨大赤レンガたちに別れを告げた私はカブトビールを販売している近くの半田ステーションホテルに向かった。ここではカブトビールの当時の看板やポスターも展示した「カブトビール館」があり、1館のレストランで飲んだ。ピルスナーと黒ビールのハーフ&ハーフのような味わい。これが明治の味なのだ。

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南吉の恋、赤レンガの誇り‥。酔いは深まることなく、頭は冴えてきた。旅の最後に立ち寄ったのは紅茶専門店「T's CAFE」。ステーションホテルから南に歩くこと10分。おしゃれな洋館だ。元は中埜家の10代目中埜半六が英国留学で欧州の住宅にあこがれて明治44年に建てた別荘。飾り窓にバルコニー‥。おとぎの国にでもありそうな建物を設計したのは名古屋の多くの名建造物を手がけた鈴木禎次。国指定重要文化財である。

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秋の日差しが降り注ぐ出窓の前で紅茶とスコーンのセットをいただく。最後は中年の飲ん兵衛にふさわしくないシチュエーションで旅を終えるのであった。

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問い合わせ

蔵のまち観光案内所(半田市観光協会)
住所 半田市中村町1の40
電話 0569-32-3264

國盛 酒の文化館
住所 半田市東本町2の24
電話 0569-23-1499

半田ステーションホテル
住所 半田市宮路町511
電話 0569-23-3222

T's Cafe
住所 半田市天王町1の30
電話 0569-21-0820


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コメント

ユキコン | 2010年10月28日 14:15 | 返信
不思議な感じがしました。
和と洋が入り混じったような雰囲気がします。
ぜひゆっくりと時間をとって、夫婦でのんびり歩いてみたいです。

お菓子大好きママ | 2010年10月27日 22:23 | 返信
もう少し年を重ねたら旦那さんと行ってみたいです!

アクアク | 2010年10月26日 18:54 | 返信
日本中あちこち行きましたがまだこんなところがあったとは!
知多半島を次の旅行のターゲットにします。

根岸 修一 | 2010年10月26日 17:22 | 返信
辛党バッチし。カブトビールとお酒の国盛り、ほわっとウオーキング出来ます。最高ですね

吉田 董 | 2010年10月26日 08:50 | 返信
大阪府に住まいするシルバー者です。 11月のウイークデイに、水彩画の画題
に魅力たっぷりの半田市と常滑市へ友人夫婦とドライブで1泊し、4人で地産の旬
の農・海産物旨いものとフルーティな新酒を求めて旅したい、今から想像逞しく気
分わくわくです。

榊原昭夫 | 2010年10月14日 18:35 | 返信
家の近くなのですが、一度も行ったことがなく、
是非、行ってみたくなりました。

びいる | 2010年10月 5日 11:45 | 返信
印象に残る建物多い地域ですね!

志央☆ | 2009年12月 3日 20:41 | 返信
新美南吉さんの生まれ故郷ですね!!
年齢的にお酒は飲めませんが、ここの酒蔵の甘酒を飲んだことがあります☆
やっぱりスーパーに売っているものとは違ってすごく飲みやすくて…瓶入りだったのですが、二日で飲みきってしまいました^^;
廃墟は大好きなんです!特に赤レンガは!!今までは写真でしかみたことがなかった赤レンガの工場が、見に行ける近さにあるのだから行かなきゃ損ですよね。
いきたいなあ…

ヨーコ | 2009年11月16日 22:41 | 返信
日本酒、ビールとまさに大人の休日!
ほろ酔い気分でお散歩したい情緒ある町並みですね。

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