名古屋友禅の工房見学で、手描き友禅の技に迫る!

(取材日:2012年1月17日)

◆伝統工芸・名古屋友禅のもつ魅力とは?
名古屋友禅の工房を、一般見学できることはご存知でしたか? 友禅といえば、京友禅、加賀友禅などが有名ですが、名古屋にも名古屋ならではの「名古屋友禅」があるのです。
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もともと名古屋友禅は、江戸時代、華やかな文化を好んだ尾張藩主・徳川宗春の時代に、京都の絵師(友禅師)が、その技法を伝えたのが始まりとされています。徳川宗春失脚後に再び質素倹約の時代となり、名古屋友禅も色数を抑えて単彩濃淡の、渋く落ちついたものへと移行していきました。昭和58年には、経済産業省から伝統的工芸品に指定されています。

一口に名古屋友禅と言っても、手描き、型染、黒紋付染の3つの種類に分けられ、それぞれ技法も異なります。このうち、見学ができるのは、名古屋友禅工芸協同組合会員の手描き友禅工房。見学希望者はまず、窓口である(株)正直屋(TEL.0120-39-0529)に問い合わせをし、申し込みます。今回は、組合理事長でもある友禅師・伊藤勝久さんの工房にお邪魔してきました。

工房といっても、じつは伊藤さんの仕事場はご自宅の2階。恐縮しながらお邪魔すると、そこには別世界が広がっていました。
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うわあ、きれい! 製作途中の作品ながら、マツモト、この時点ですでにテンションアップ!
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名古屋嬢、名古屋流結婚式などのイメージからか、名古屋と名のつくものは、失礼ながら濃い&ケバいイメージがあるのですが、名古屋友禅だけは別格。色合いも柄のバランスも控えめで、品の良い美しさがあります。

「たしかに名古屋友禅は渋くて地味な友禅と言われています。気候や風土、地域によっても色が違ってくると思いますが、京も加賀も名古屋も、製作工程や使う素材自体には変わりがない。むしろ作家の個性によって仕上がりが変わる部分が大きいと思いますよ」と、伊藤さん。
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伊藤さんの作品をいくつか見せていただきました。こちらは娘さんが成人式のときに製作したという振袖。やさしい桜色に、満開の桜の花と風に舞う花びらが可憐!
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かたやこちらは訪問着。こちらもまた楚々とした逸品です。よく見ると花びらの周りに金の縁取りが施されていたり、葉の色が途中で変わっていたりと、とても手が込んでいる作品です。
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ああ、どれもステキ。欲しい...。いやいや、ぽーっとなっている場合ではありませんね。名古屋友禅がどのようにして生まれるのか、さっそくその工程を教えていただきましょう。

◆白生地から彩色仕上げまで、友禅師が一貫して製作
かつては下絵、糊置き、友禅(色挿し)、染めなど、工程ごとに専門の職人がいて、分業制で製作されていたという名古屋友禅。しかし昭和40年代以降は、すべての工程を友禅作家一人で行うことが多くなりました。理由は各職人たちの廃業、高齢化に伴う後継者不足。伊藤さんは、昭和39年からこの道に入りました。当時22歳。父親が友禅作家として活躍しており、自分の進路を考えたとき、「友禅は10年やって始めて基礎がわかる世界。ならば寄り道せず、最初からこの道でやっていこう」と腹をくくったのだそうです。

「父は、ああしろこうしろとは一切言わなかった。ただ、初めて花を描いているときに"本物の花を見て、枝にどうついているか、実際に見てスケッチしなさい"とは言われましたね」。それ以降、スケッチブックを片手に外に出たり、日本画の先生についてデッサンや運筆を学んだりと努力を重ねてきた伊藤さん。

友禅を製作する際は、そのスケッチをもとにアイデアを練り、白生地に下絵を描いていきます。下絵は、おもに青花液(ツユクサの変種、大帽子花から抽出した天然の青色)を使用。青花液を使うのは、これが水によって"色が散る"(青花で描いた線が消える)性質をもつため。
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下絵完成後、色挿しのときに隣同士の色が交じり合わないよう、糊置きをしていきます。
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伊藤さんが手にしているのは、「糊筒」。生クリーム絞り袋に極細の口金をつけたような、糊置き専用の道具です。白生地に対して糊(餅米が原料)で下絵をなぞっていくわけですが、そのままだと見えにくいため、亜鉛末を混ぜるのだそう。完了すると、こんな感じになります。
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「ベテランになると、下絵のおかしいところを見つけたら、この段階で修正することもあるんだよ」(伊藤さん)

そうそう。その前に。じつは手描き友禅で着物をつくる場合、白生地をまず着物の型に裁断して仮縫いをし、その状態で下絵を描きます。下絵が完成したら仮縫いをほどき、生地の裏側から伸子(しんし。布をぴんと張るために使う、竹製の道具)を張り、糊置き作業に入るのです。仮縫いをするのは、完成時、縫い合わせの部分で絵柄がズレるのを防ぐため。下絵の段階で、すでにこれだけの手間がかかっているんですね~。
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伊藤さんの仕事場です。おびただしい数の筆や染料が取り囲んでいます。
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友禅の色挿しは、糸目糊から色がにじみ出すのを防ぎ、染め上がりをよくするため、火鉢や電熱器などで下から温めながら行います。冬はもちろん、夏でも火鉢。いやはや恐れ入ります!
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◆名古屋友禅の職人技を間近で見るチャンス
友禅にかかわる仕事には"悉皆屋(しっかいや)"と呼ばれる、専門店への取次ぎをするコーディネーターのような役割の人もいます。職人にクライアントのニーズを伝え、仕上がったものに対して修正の指示も出します。悉皆屋経由の仕事も大切な収入源なのですが、それに専念してしまうと、作家本来の独自性や、その土地ならではの特性は消えてしまう――。名古屋友禅の友禅師たちはその点に危機感を覚えて組合をつくり、毎年作品展を開催するなど、作家のモチベーションと創造性を磨く機会を設けています。

これは伊藤さんが第25回東海伝統工芸展に出品し、見事名古屋市長賞を受賞した作品、訪問着『朝露』。左右の色が異なる大胆な片身染分け、着物のモチーフとしては珍しいフリージアを全面に配したデザイン。近づいて見ると、水玉やストライプも入っていることがわかります。斬新さと同時に、気品も感じられるだなんて、すごい。ちなみに手描き友禅の下絵や色挿しは、すべてフリーハンドで行います。熟練の職人でなければ成しえない技が、ここに集約されているのです。
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「じかに注文をいただく場合は別ですが、制作者がお客様の顔を見られないというのは寂しいこと。やはり自分が納得できた作品に対して、こうした評価や反響があったときが一番うれしいですし、やりがいを感じますね」(伊藤さん)

伊藤さんら友禅師たちの仕事は、今回のような工房見学でじっくり見ることもできますし、ときおり開催される伝統工芸関連のイベントでも見ることができます。直近では、1月28日(土)・29日(日)に、名古屋市・ナディアパークで『「技とこころ」~名古屋の"匠"体験フェスタ~』が開催。28日(土)には友禅染の実演があり、29日(日)にはハンカチの型染め友禅体験ができます(参加費800円)。名古屋ならではの伝統工芸、その素晴らしさをぜひ間近で感じてみてくださいね。


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