ユニークな企画展が毎回気になる!「刈谷市美術館」

(取材日:2010年5月14日)

◆絵本、イラスト、アニメーションの世界にスポットライトを当てた企画展
今回お邪魔したのは、愛知県内の公立美術館のなかでも、かねがね気になっていた刈谷市美術館。というのも、こちらの美術館、気がつけば他の美術館では取り上げないような個性的な企画展を多く開催しているのです。
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2003年には『没後20年 中原淳一展』『ディック・ブルーナ展』、2004年には『イジー・トゥルンカ展』、2005年には『ぼくらの小松崎茂展』、2007年には『チェコ絵本とアニメーションの世界展』、2008年には『"ロマンティック"よ、永遠に 内藤ルネ展』、そして2009年には『わたしが選んだいわさきちひろ展』――。大きな美術館が偉大な芸術家や、いわゆる名画をテーマにすることが多い一方で、刈谷市美術館では絵本やイラスト、アニメーションの世界で活躍する作家にスポットライトを当て、詳しく紹介することが多いのが特徴です。

そして、これらの企画展をおもに担当しているのが、松本育子さん。企画展の構想や準備には、なんと、約3年前からとりかかるのだそう。にもかかわらず、チェコアニメや内藤ルネなど、世の中のブームとばっちりタイミングが合っている"目力"がすばらしい......。

「内藤ルネさんのときは、偶然にも準備途中でご本人が亡くなってしまったので注目度も高かったんですが、つねに心がけているのは"ブレない企画"ですね。そして、大きな美術館では手がけない、ニッチな分野での企画(笑)。私はここに来る前に子どもに関わる勉強をしておりまして、絵本に携わる機会も多かったんです。絵本のルーツを探るとチェコアニメにたどり着きますし、愛知県には子ども向けの本や絵本で評価されている作家さんも多いんですよ。いわゆる芸術作品として創作されたものではない雑誌や絵本など、身近なところにも優れたデザインは多いですし、そうした作家やデザイナーたちがあまり高く評価されていないことが残念で...。彼らの、ともすれば消えてしまいそうな功績をまとめ、救いあげたいという使命感みたいなものもありますね」とおっしゃる松本さん。

その目力は「いいもの伝えたい」という真摯な思いから生まれたものなんですね。同じ苗字ながら最近なんだかテンション低めだったマツモト(=私)、お話を聞いているうちに、思わず背筋が伸びちゃいました。

◆気さくな雰囲気で、かしこまらないギャラリートーク
現在は、5月30日まで『カレル・ゼマン展』を開催中。イジー・トゥルンカに並ぶチェコアニメの巨匠で、今見ても斬新な手法と、わくわくするような物語を多く生み出した"トリック映画の前衛"。日本国内では、初の回顧展という快挙です。
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原画や人形、アニメーション制作過程がわかる貴重な資料や絵コンテが並ぶほか、会場内の数か所で代表作の上映も行われています。巨匠とはいえ、この世界に詳しい人ではない限り「知る人ぞ知る」存在で、マツモトもこの企画展にお邪魔するまでは未知の作家さんでした。取材日はちょうどギャラリー・トーク開催日だったので、マツモトもちゃっかり参加させていただきました~。

ギャラリートークは、会期中の第2・第4金曜日の13:00~開催されています(次回は最終回、5月28日に開催)。平日にもかかわらず、この日のギャラリートーク参加者は、約20名ほどもいらっしゃる。ナビゲートしてくださったのは、先ほどお話をうかがった松本さん(写真左側にいらっしゃる黒い服の女性)です。ちょっとだけ、ツアーの内容をお伝えしましょう。
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「この人形をよく見ていただくとわかるんですが、ゼマンの生み出す人型のキャラクターには、指が4本しかないんです。人間のようであって、人間ではない存在なんですね。ちなみにこのキャラクターは縞々のシャツとズボンをはいていますが、上着を脱いでも、つなぎになっているシャツとズボンに縞々模様がついているんです。こんなところにもゼマンならではのこだわりがあります」
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「当時はコピー機などありませんでしたから、1枚の絵をもとにイメージを発展させていったり、スタッフに共有したりする場合、ゼマンはよくトレーシングペーパーを活用していました。また、映画を撮影するときも、工夫して多くのトリック手法を生み出していました。たとえば、手前に恐竜の絵を置き、はるか後方に人が乗れる階段を設置しておく。これを組み合わせて撮影すると、恐竜の背中に人が乗っているように見えるんですよね。実際に体験することができるよう、再現してみましたので、ぜひみなさんもお試しください」
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専門的な小難しい話でもなく、こちらに感想を促すタイプでもないギャラリー・トーク。トリビア的な小話もたくさん聞けるので、時間がある方はぜひとも参加されることをオススメします。予定時間(40分)を超えるツアーでしたが、まったく疲れることもなく、むしろゼマンと彼が構築してきた世界に、がぜん興味が湧いてきました。

水玉の世界を表現するために、キャラクターや小道具などのすべてのパーツ(!)をガラスで作って撮影したり、人形アニメーション撮影をするために、まず立体でキャラクターをつくり、それを撮影し、撮影した写真をもとに切り紙にし......など、とても手の込んだ手法を用いて少人数で作品づくりを続けていたゼマン。気が遠くなるような作業の連続ですが、すべては「子どもたちに夢や希望を与えたい」という純粋な職人魂からのことだったそう。ただただ、脱帽です。
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◆茶室では企画展に合わせたオリジナルお菓子が登場
刈谷市美術館では、企画展開催中のイベントやミュージアム・ショップの内容もユニークです。『カレル・ゼマン展』に関するイベントは、残すところ5月28日に開催されるギャラリー・トークのみになってしまいましたが、アニメーション作家・山村浩二さんを招いての特別講演会や、ワークショップ、期間限定カフェなどが開催されました。

ミュージアム・ショップには、ゼマン作品のDVDをはじめ、代表的なチェコアニメ作家の絵本、キャラクターグッズ、ポストカードなどが並んでいます。チェコの文房具、切手なども発見。チェコアニメや絵本もそうですが、チェコ産のものは、きらびやか過ぎず、硬すぎず、独特のかわいさがあるなあ、と思います。
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もう1つ、ぜひご紹介したいのが、美術館に隣接する茶室『佐喜知庵』。本格的な茶室で、お庭も素敵です。
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普段、ここではお抹茶とともに季節のお菓子をいただけるのですが、企画展開催時には、じつは企画展の内容にちなんだ特別な和菓子を出しているんです。で、今回のゼマン展で出されているのが、コチラの『ワンワンまんじゅう』。
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ゼマンの作品"プロコウク氏シリーズ"に登場する犬のデッサンをモチーフにしたもので、とってもカワイイ!でしょ? これをいただけるお呈茶の時間は、企画展開催日の13:00~15:00まで(一服300円)ですが、おまんじゅうには数に限りがあり、平日に20個、休日に30個程度準備されるとのこと。「ぜひこのおまんじゅうとともにお抹茶をいただきたい!」という方は、なるべく早めの時間にお出かけくださいね。実際、この日マツモトが14:30頃にお邪魔したときには、すでに売り切れになっていましたので...(無念)。

今後、刈谷市美術館の企画展は、愛知県一宮市出身の日本画家・川合玉堂の作品と、刈谷市美術館の日本画所蔵品を紹介する『川合玉堂+現代日本画家展』(7月18日~8月29日)、名古屋市出身のグラフィックデザイナー&挿絵画家、宇野亜喜良の耽美的な世界を紹介する『宇野亜喜良展』(9月18日~11月3日)が予定されています。見て、聞いて、体験して、そして食べて。高尚なテーマではなく、身近にある良質な作品を、より深く知ってもらうための工夫を欠かさない刈谷市美術館。これからもますます、その独自路線からは目が離せません。


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