船頭さんの操る船で川を渡る渡し舟。全国的には、歌謡曲にもなった「矢切の渡し」(江戸川の東京・柴又~千葉・松戸)が有名だ。ちなみに昭和の名曲「矢切の渡し」は多くの歌手に歌われたが、ちあきなおみが最高と私は思う。
愛知県内に風情のある渡し舟はないかと調べると、豊橋市・豊川に「牛川の渡し」があった。取材に訪れると幻想的な風景の中で、ドラマチックな話を聞くことができた。(2010年1月21日取材)
豊橋駅から豊橋鉄道バスに揺られて、豊橋創造大学前で下車。眼下に豊川がゆったりと流れている。早朝まで降った雨と気温の上昇で濃い霞(かすみ)が川面や、川岸に迫る木々を覆っていた。
春霞の土手を下ると船着場、その右手の小高い場所に木々に囲まれた木造の建物がある。入り口に「船よび板 牛川の渡し」と手書きの看板、その下に板がつるされている。なるほどこの板を木槌で叩いて、建物の中にいる船頭さんを呼び出すわけだな。なんだか宮沢賢治の童話の世界みたいだ。
「まあ、建物の中からお客さんが来るのが見えるから、板を叩いてもらわんでも出てきますよ」
建物(渡しの事務所)を訪ねると船頭の阿部礼治郎さんはそう言って笑った。
古来、水運が発達した豊川。平安時代から要所に渡しの港があったといわれる。牛川の渡しは唯一、現代に残った渡しだ。川幅80メートル。事務所のある牛川町側から対岸の大村町側までを船頭さんの手漕ぎ舟によって渡る。
その「航路」は市道175号であるため、渡船は昭和7年(1932)から豊橋市営として運航、平成6年(1994)に渡船業務を民間業者に委託している。料金無料。地元住民の足であり、観光地としても注目を集めている。最近は豊川市出身の映画監督園子温さんの映画「ちゃんと伝える」のロケ地になった。
1日の利用者は冬場は約20人、夏場は約50人。観光イベントなどがあると1日200人が利用する。「この間は秋田から、全国の渡し舟を乗り歩いているという人が来たね」(阿部さん)
「乗ってもいいですか?」
「どうぞ」
船は「ちぎり丸」。演歌風のロマンチックな名前だが、豊橋市の市章「ちぎり」から銘銘。全長10メートル。「昔は木製だったが、今は強化プラスチック製。このあたりの川の水深は干潮時で1・5メートル、満潮時で3メートル強と浅いので、底の浅い手漕ぎ舟でしか渡れないんだ」と阿部さん。桟橋を渡って乗り込んだ。
「今日は小潮で穏やかだな」
船首に立った阿部さんが竹竿を右に左にゆったりと操ると、ちぎり丸は鏡のような静かな水面を滑るように進んだ。川面には水鳥が浮かび、振り返ると事務所の建物は霞の中。ファンタジー映画の場面のようだ。
岸と岸の間にワイヤーを渡して、そこから舟にもワイヤーをつなげて舟が流されないようにしてある。
「竹竿の操作は簡単そうで難しいね。コツがある。素人は無理」
渡しは河口から9キロの地点にあるが、水流は干満の影響を受ける。
5分ほどで対岸の大村町側に到着した。岸辺に、NHK「のど自慢」の鐘のように長短の鉄パイプと木槌がぶら下がっている。船頭さんが対岸の事務所にいた場合、利用者がこれを叩いて知らせる。写真に収めた後、牛川町側に折り返してもらった。
船頭さんは阿部さんら2人。委託された民間業者の社員だ。
「私のオヤジもここの船頭でした」
事務所で阿部さんが意外な話をした。
阿部さんが1歳のとき、父親が豊橋市職員として牛川の渡しの船頭さんになった。阿部さんは両親とともに、今は事務所になっているこの建物で暮らした。学校を卒業してある会社に就職。「そこを定年になったのを機に、ふるさとの船頭をやろうと委託業者に再就職したわけです.。もう4年になりますね」
話終えると阿部さんは「もう来るかな」と腰を上げた。対岸に常連の利用者がやってくるころだという。そろそろお暇する時間だ。
ちぎり丸が対岸に渡り、自転車の女性が牛川町側に渡ってくるのを見届けた私は、この美しい風景を後にした。
豊橋市向山町に向山緑地梅園があることを思い出し、寄ることにした。
東三河を代表するこの梅園は27種類約400本の梅がある。うめまつりは1月23日~3月7日だが、期待通りちらほらと花を咲かせていた。
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満開になるとこんな感じ(豊橋観光コンベンション協会提供)
「雨露に濡れて咲く梅がいい写真(え)になると思ってね。このぐらいの時期もいいね」
近くに住むというお年寄りがカメラをぶら下げながらそう話した。
春はもうそこまで来ていた。

























志央 | 2010年2月 9日 18:49 | 返信
いってみたいですね…いまごろは寒いかな舟渡まだあるんですね
有名なのは版画ですかね…なんだかそんな印象です
ヨーコ | 2010年2月 9日 21:11 | 返信
手漕ぎ舟!
なんとものどか~、しかもエコ!
こんな渡し舟がまだ残ってるなんて知りませんでした。
私も驚きでした。取材の日は天気が不安定でしたが、それが逆に手漕ぎの渡し船にぴったりの風情になりました。旅も運ですね。愛知県には観光の穴場がたくさんあります。自分だけの「宝物」を探しに、出かけてみてください。